◇ネットカフェ難民に「住所」提供
世界的な景気後退懸念が強まる中、派遣労働者やアルバイトなど非正規雇用の絞り込みが進んでいる。ますます増えようとする不安定、低賃金雇用の人たちに照準を合わせた「貧困ビジネス」も広がっている。
賃貸マンション業のツカサグループ(東京都)は1時間300円、24時間1500円の個室時間貸しサービスを始めた。「低所得者に受ける」との思惑が当たり、満室が続く。
2畳に満たない個室には、パソコンを置いた机と座椅子、洗面台があるだけだ。ツカサグループが昨年8月、「ネットルーム」と銘打って始めた。ここに約1カ月寝泊まりしている50代男性は、北海道で経営していた会社が昨年倒産し、追われるように上京。一時は旅館に住み込みで働いたが、アパートを借りる資金をためようと、運送会社の夜勤アルバイトを見つけた。夕方6時から翌朝6時まで荷物の仕分けが続き、ほとんど休憩はない。体はきついが、1日1万5000円の日当が魅力という。
ツカサはもともとビジネスマン向けに月単位で貸していた部屋65室を、1時間300円、24時間1500円という時間単位に変更した。月単位より割高だ。しかし、まとまった現金を持たない住居喪失者は割高な時間貸しを選びがちだ。川又三智彦社長は「景気悪化で失業者は増加傾向にあり、需要は増している」と語る。
埼玉県蕨市のネットカフェ「サイバーアットカフェ」(佐藤明広社長)は昨年末の開店から、「ネットカフェ難民」など住居喪失者の住民票を店内に移し、郵便物を受け取るサービスを始めた。
「難民」の多くは定職に就きたいが、住所不定だと面接すら受けられない。そうした現状をマスコミで知り、ネットカフェのビジネスと両立する仕組みを検討。蕨市役所とも相談し、あらかじめ30日分の利用料(5万7600円)を支払うことなどを条件に、利用者に「住所」を提供することにした。
現在も住民票が必要な4人が利用。ネットでも話題となり、宣伝効果でカフェの来店客が増える相乗効果も生まれた。部屋は常時満杯だという。佐藤社長は「貧困を商売にしていると批判されるかもしれないが、ネット難民がステップアップした事実を見てほしい」と話す。
貧困ビジネスの拡大について大阪市立大の島和博教授(労働社会学)は「生活の場など本来、インフラとしてなくてはならない部分が欠けていることが背景にある。行政は、公営宿泊施設などのセーフティーネットの拡充を急ぐべきだ」と指摘している。
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