2008年11月2日日曜日

【個室ビデオ店火災】“個室店難民”、再起半ば絶たれた希望

2008年10月3日

 大阪・難波の個室ビデオ店「試写室キャッツなんば店」で起きた火災は、同種の店がホテル代わりに利用されている実態を浮き彫りにした。現場となった店は、終夜過ごしても1500円程度という業界でも屈指の低価格が売り。犠牲になった15人のうち、介護ヘルパーの舞野学さん(49)は、この店に泊まることで家賃を切り詰めて資格取得に励んでいたという。3日午後には舞野さんの葬儀が営まれ、参列した同僚らは「きちんとした家を借りていれば…」と、志半ばで人生を終えざるを得なかった無念さを思いやった。

 舞野さんが倒れていたのは店の最奥部にある32号室前の通路。この店がなぜ、舞野さんにとっての“最終地”になってしまったのか。

 舞野さんは、かつて代表を務めていたアクセサリー卸会社が倒産。多額の債務を背負いながら、新たな人生を歩むためにヘルパー2級の資格を取り2年前、大阪市浪速区内の訪問介護会社に再就職が決まった。「ケアマネジャーになる」という夢もあった。

 舞野さんは当時、市内の別の場所に住所地があったが、借金の取り立てに苦しめられた。舞野さんが家賃を切り詰めるために選んだのが、ネットカフェや個室店に寝泊まりする生活。その一つが職場に近いキャッツなんば店だった。

 「そろそろ家を借りたらどうか」。事件の数日前、連日のようにビデオ店に寝泊まりしていることを心配した同僚がこう切り出したが、舞野さんは「なかなか難しい。近いうちに」とはぐらかした。同僚は「もっと強く説得するべきだった」と悔やむ。

 個室ビデオ店は1時間ごとの料金が基本だが、店舗が集中する大阪のキタやミナミの繁華街では一晩中滞在できるような割引価格設定をめぐり、熾烈(しれつ)な競争が繰り広げられている。ミナミでの相場は2000円前後。ネットカフェでは5時間のナイトパック(個室)でも3000~1500円で、個室ビデオ店のほうが安い。このため終電に乗り遅れた会社員や家を持たない「ネットカフェ難民」と呼ばれる若年層の利用も増加。宿泊施設としての利用がメーンになっている。

 火災の起きたキャッツグループは「日本一の安さ」がスローガン。1泊シャワー付きで1500円の料金設定は大手個室店に比べても割安で、全体の相場を下げたとの声もある。ただ安さの裏側でなんば店では老朽化が目立っていたという。

 常連の男性客(31)は「近くのライバル店がリニューアルされ、若い客がそちらに奪われた。最近では日雇い労働者風の年配客が多かった」と話した。

 ワーキングプアの問題に詳しい「派遣ユニオン」の関根秀一郎書記長は「日雇い派遣の労働者が、『個室ビデオ難民』になっている。雇用対策がきちんとされない限り、今後もこういう店は増え続けるだろう」と指摘している。

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